副編集長・加藤未央が自ら筆を取る本コラム、その名も『パンツを右足から穿くように』。早くも自称「右パンコラム」として定着しつつあるこのコーナーも、今回は少しおセンチな気分。満開の桜もあっけなく散り始めるこの頃、別れを経た後の出会いの期待感に胸膨らむそんな人々が行き会う今日時分、加藤未央はサッカー少年たちとの出会いに、心動かされていたようだ。
text by Mio KATO
文=加藤未央 3月末、ダノンネーションズカップというU-12の小学生によるサッカー大会の取材をする機会をいただいた。
正直言ってしまえば、自分が小学生だった時を除いてその年代の子どもと触れ合う機会なんて一切なかった私にとって、小学生は未知の生き物に近かった。真冬に短パンを穿いてランドセルを背負う男の子を見たりすると、もうミステリーでしかない。そんな子供たちに囲まれながら彼らを追い続けた2日間は、とても特別な時間だった。一体どう特別だったのか……なんだか未知の世界だったその大会は、キラキラと光り輝きながら周りも反射させてより一層輝く、そんな子どもたちの感情で満ち溢れていた。
身長126センチの少年は、試合中に10センチ以上も体格差のある相手とぶつかり合いながら戦って、倒されても転んでも、真っすぐに前を見てすぐに立ち上がっては再び試合に戻っていった。
試合前に「絶対に勝つ! ってゆーか、優勝する」と、剥き出しの闘志を隠すことなく露わにしていたお調子者が多くて明るいチームの子どもたちは、敗退が決まった後に下を向いて悔し涙を流し、しばらく口を開く子は誰ひとりとしていなかった。
他の仲間と同じように今まで練習してきたけれど出場選手に選ばれなかった子どもたちは、声の限り全力で試合に出ている仲間を応援していた。
今までクールにインタビューに答え続けてきた少年は、優勝が決まった瞬間に空を仰ぎながら顔を歪ませて大きな声で泣いていた。
勝っては顔全体から喜びをにじませて、負けると顔を俯けて悔しい気持ちを隠そうともしない。
シュートを打って入らなかった時、笑う子どもは一人もいなかった。
いつからだろうか、失敗しても「仕方ないよ」と言い訳するかのように笑ってごまかすようになるのは。
Jリーグを見ていても、シュートを外した後に笑う選手を見ることは、少なくない。日々サッカーの練習に明け暮れて、誰よりも苦労しながらサッカーと向き合って生きてきている選手が、シュートを外して悔しくないわけがない。内心「くそー!」と思っているはずだ。それでもその悔しさを顔には出さずに、「しょうがないよ」と言わんばかりの笑顔を見せる。それは、なぜか。
その道のプロになると、負う責任の重さに比例して、失敗した瞬間にそれと向き合うのが怖くなったりする。自分を守る術の一つが「笑うこと」なのかもしれない。自分の感情をさらけ出した時に傷つくのが怖くて、ごまかして、本心を隠してしまうのかもしれない。そういう私も、そんな大人の中の一人だ。
きっと私が取材した子どもたちも、いつか大きくなったら感情を隠すことを覚える時が必ずくると思う。何かを守るために必要なそれは、決して悪いことだとは思わない。ただ、あまりに綺麗なこの瞬間の感情は、見ている人の心を真っすぐに捉えて打つ。
時には傷つくことを怖がらずにその時の自分の感情と真っすぐ向き合う、そんなことを教えてもらった2日間だった。子どもたちの素直な感情は魅力的だ。それはもう、惜しいくらいに。
加藤未央(かとう・みお)
1984年1月19日生まれ、神奈川県出身。 2001年に「ミスマガジン」でグランプリを獲得し、05年には芸能人女子フットサルチームにも所属。07年から09年まで「スーパーサッカー」(TBS)、09年から15年まで「スカパー!」 のサッカー情報番組「UEFA Champions League Highlight」のアシスタントを務め、Jリーグや海外サッカーへの知識を深めた。現在は、ラジオ番組「宮澤ミシェル・サッカー倶楽部」などにも出演し、フットサル専門誌「フットサルナビ」でも連載中。15年4月からオフィシャルブログ「みお線」もスタートした。http://ameblo.jp/mio-ka10/