毎回、気になるフットボール女子の素顔をご紹介する「bonita!(ボニータ)」。今回は女優や声優、ナレーションなど幅広いジャンルで活躍する松本まりかさんにご登場いただいた。
なお本記事は、Football Culture Magazin ROOTS Vol.08(2016年3月発行)に掲載された内容をお届けします。
text and photo by Tetsuichi UTSUNOMIYA
文=宇都宮徹壱毎回、気になるフットボール女子の素顔をご紹介する「ボニータ」。今回はいつもと趣向を変えて、普段あまりフットボールに接点がない方に「ボールを使った演技をしてもらう」という撮影を試みた。チャレンジしてくれたのは、俳優、声優として多彩な活動を続けている、松本まりかさん。ロケーションは彼女がお気に入りだという、東京・六本木にあるグリル料理とワインのお店「GRILL & WINE GENIE’S TOKYO」である。およそ30分ほどのフォトセッションののちに、まずは久々に触れたボールの感触について語ってもらった。
「子ども時代に回帰したような感覚でしたね。大人になると、なかなかボールに触る機会ってないけど、子どもは丸いボール一つで何時間でも遊べるじゃないですか。あと、いろんなゲームもできるし、いろんな人とコミュニケーションもできる。ボールって偉大なんだなって思いました(笑)」
一見、スポーツには縁のなさそうに見える、まりかさん。しかし、アスリートに対しては強いシンパシーを感じているという。
「女優の仕事とスポーツは、ものすごく共通項があると思っています。試合や大会に向けてストイックに練習を続けること、そして本番で一気に集中力を高めていくこと、絶頂とどん底を経験するところなんかもそうですよね。私自身、お芝居を続けているなかで『自分には才能がないんじゃないか』って絶望的な気分になることが何度もありました。でもそんなとき、敗戦や失敗を糧に再び這い上がるアスリートの姿は、ものすごく励みになるし、『自分も頑張ろう』って思います。優勝して喜ぶ姿も素敵だけど、挫折を経てさらに成長していくプロセスもまた、スポーツの素晴らしさだと思うんです」
中学生のときにスカウトされて2000年に女優デビュー。その活動歴は長い。彼女に、女優の仕事の魅力について尋ねてみた。
「自分の好きなように、好きなことができることですね。自分が行ってみたいところに行けるし、会ってみたい人にも会える。自分の意思の赴くままに生きることができて、それをすべて活かすことができるのが女優という仕事だと思っています。自分が経験してきたことに無駄なものは一つもないと思うし、そのすべてが自分の仕事に反映されている。私自身、とても恵まれていると感じています」
長いキャリアのなかで転機となったのが、10年5月から翌年2月までのロンドン留学。本人の強い希望により実現したのだそうだ。
「英語圏で語学の勉強がしたかったというのもあったんですが、それ以上に『自分の足で立ってみたかった』。中学からこの仕事をしていますが、ずっと実家暮らしで、常に周りに助けてくれる人がいる状態だったんです。そうではなくて、誰も知っている人がいない土地で、何でも自分でやらなければならない環境で生活する。それを実行するのはこのタイミングしかないと思って、1年をかけて事務所を説得しました(笑)。飛行機のチケットや学校選びなんかも全部自分でやりました」
最後に、女優としての究極な夢について聞いてみた。少し考えてから「恩返しがしたい」と、まりかさん。その理由は、こちらが想像していた以上に壮大なものであった。
「私はこの仕事で得たものを還元したいんです。たくさんお金を稼いだら、それを誰かのために使いたい。自分が何か知識を得たら、それを知らない人に教えたい。困っている人がいたら、やっぱり助けてあげたい。女優として得られたものを、自分の人生をかけてお返ししたいんです。そうすることで、この地球が少しでも良くなったなら、私は満ち足りた表情で死を迎えられると思います。ちょっと大げさかな(笑)」
撮影協力 GRILL & WINE GENIE’S TOKYO
〒107-0052
東京都港区赤坂9-7-2 東京ミッドタウン プラザ 1F
営業時間:
日〜水/11:00〜15:00(L.O.14:00)、17:00〜24:00(L.O.23:00)
木・金・土/11:00〜15:00(L.O.14:00)、17:00〜28:00(L.O.27:00)
Tel:03-6434-9406
URL:http://genies-tokyo.com
「一人でも大勢でも利用できる私の“素”がある場所」
松本まりか
1984年9月12日生まれ、東京都出身。
2000年、NHKドラマ「六番目の小夜子」で女優デビュー。大人気ゲーム「FINAL FANTASY X」のリュック役の声優やナレーションなど幅広いジャンルにチャレンジし、ドラマや映画、舞台など様々なフィールドで活躍している。
あどけなさも大人っぽさも、どっちも今の彼女──。
宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
1966年3月1日生まれ、東京都出身。写真家、ノンフィクションライター。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、映像制作会社を経て、97年に「写真家宣言」。フットボールの視点から、民族問題、宗教問題を切り取ることをテーマとした活動を開始した。著書に「ディナモ・フットボール」(みすず書房)、「股旅フットボール」(東邦出版)、「フットボールの犬 欧羅巴1999−2009」(東邦出版)、「松本山雅劇場 松田直樹がいたシーズン」(カンゼン)などがある。 WEBサイト「徹壱の部屋」 http://supporter2.jp/utsunomiya/ 有料メールマガジン「徹マガ」 http://tetsumaga.com/