2016年2月、ウズベキスタンの都市、タシュケントで開催された「AFCフットサル選手権ウズベキスタン2016」に臨んだフットサル日本代表。準々決勝でまさかの敗戦を喫し、アジアに5枠が与えられていたワールドカップの出場権も逃すという失態を犯した。この「悲劇」はなぜ、起きてしまったのだろうか──。
本コラムは、Football Culture Magazin ROOTS Vol.08(2016年3月発行)に掲載された内容をお届けします。
Text and Photo by Yoshinobu HONDA
文=本田好伸フットサル日本代表は2月10日に開幕したAFCフットサル選手権ウズベキスタン2016(アジア選手権)に出場。2年おきに開催される同大会で2連覇中の日本は、アジア3連覇の達成と同時に、今年9月にコロンビアで開催されるワールドカップの出場権を懸けて大会に臨んだが、準々決勝でベトナム代表に敗退した。さらに、5枠目でのW杯出場を懸けたプレーオフでも初戦でキルギスタン代表に敗れ、4大会連続W杯出場の望みが断たれた。
大会が開かれた都市にちなんで「タシュケントの悲劇」とも表現できる結果であり、現地やテレビ放送を通じて見守った多くのフットサルファンにとって、かつてないほどにショッキングな出来事だったと言える。大きな失望感が生まれた背景には、ミゲル・ロドリゴ監督が率いてきた、これまでの順風満帆な道のりがあったからに他ならない。
日本代表は今大会の直前、国内合宿で調整を行い、2012年のワールドカップで4位に入った強豪、コロンビア代表との親善試合を敢行。攻守両面で高い完成度を示し、2試合を戦って3-2、4-2と連勝し、大会本番へと弾みを付けた。実際、招集メンバーを見ると、選手個々の能力も高く、整備された攻守のシステムもグループとして浸透し、“史上最強の日本”と揶揄されるほどのチームだった。それでも、結果から紐解けば、事前に想定しておくべき準備、詰め切れていなかった課題が山積していた。そうしたなかであえて一つ、今回の結果を招いた要因を挙げるとするならば、“王者のメンタリティーの弊害”が考えられる。準々決勝のベトナム戦では、3-1とリードしていた後半、1点を返されても、終盤に同点とされても、「どんな状況でも勝てるという安心感があった」(森岡薫)。戦歴では格下と言えるチームを相手に、「王者として物事を見すぎていた」(森岡)ために、何としても勝つという勝利への執念を出し切れずに、PK戦の末に敗れた。アジアチャンピオンという油断がなかったとは言い切れない内容だった。グループステージでは、カタール代表やオーストラリア代表を相手に完勝という内容ではなかったものの、王者ゆえの慢心が露呈されることはなかった。しかし、結果的に、この試合で勝てばW杯が決まるという試合でそれはあらわになり、敗れてしまったことで、チームとして積み重ねてきたメンタリティーは崩壊した。「監督からも、みんなからも『落ち着いてやろう』と声を掛け合ったが、そうすべきだと分かってはいても、話している自分たちがそもそも落ち着いている状況ではなかった」(仁部屋和弘)と、プレーオフのキルギスタン戦では、ことごとく決定機を逃し、リードを許し、自らの手で自らを追い詰めていき、そして2-6と大敗を喫した。
ミゲル監督は「予想していない驚きの結果だった。大会前に、マイナスな、ネガティブな機運はなかっただけに、“心が割れる”思いだった」と振り返った。しかし少なからず、今の代表チームに足りなかった、もしくは見えていなかったものがあったということには違いない。「なぜ、こうなったのか」という分析と検証を受けて、次へ進む必要がある。
「ここから鍵になるのは、今回起きたことを決して忘れずに、そこに向かってもう一度歩き始めること」(ミゲル監督)。日本はこの「悲劇」を乗り越えていけるのだろうか。
2016年のフットサル日本代表の戦い
国際親善試合 2016.1.27 @東京
◯3-2 コロンビア代表
国際親善試合 2016.1.30 @大阪
◯4-2 コロンビア代表
AFCフットサル選手権ウズベキスタン2016
グループステージ第1戦 2016.2.11
◯1-0 カタール代表
グループステージ第2戦 2016.2.13
◯11-1 マレーシア代表
グループステージ第3戦 2016.2.15
◯3-1 オーストラリア代表
準々決勝 2016.2.17
●4-4(PK1-2) ベトナム代表
プレーオフ 2016.2.18
●2-6 キルギスタン代表
AFCフットサル選手権ウズベキスタン2016 招集メンバー ※所属チームは招集時点のクラブ
GK
藤原潤(バルドラール浦安)
田中俊則(府中アスレティックFC)
関口優志(エスポラーダ北海道)
FP
森岡薫(名古屋オーシャンズ)
酒井ラファエル良男(名古屋オーシャンズ)
小曽戸允哉(シュライカー大阪)
星翔太(バルドラール浦安)
西谷良介(フウガドールすみだ)
渡邉知晃(大連元朝足球倶楽部/中国)
滝田学(ペスカドーラ町田)
仁部屋和弘(バサジィ大分)
吉川智貴(マグナ・グルペア/スペイン)
室田祐希(エスポラーダ北海道)
逸見勝利ラファエル(SLベンフィカ/ポルトガル)
監督
ミゲル・ロドリゴ
本田好伸(ほんだ・よしのぶ)
1984年10月31日生まれ、山梨県出身。 日本ジャーナリスト専門学校卒業後、編集プロダクション、フットサル専門誌を経て、2011年からフリーランスに転身。エディター兼ライター、カメラマンとしてフットサル、サッカーを中心に活動する。某先輩ライターから授かった“チャラ・ライター”の通り名を返上し、“書けるイクメン”を目指して日々誠実に精進を重ねる。著書に「30分で勝てるフットサルチームを作ってください」(ガイドワークス)