本コラムは、Football Culture Magazin ROOTS Vol.08(2016年3月発行)に掲載された内容をお届けします。
Text and Photo by Yoshinobu HONDA
文=本田好伸 名古屋オーシャンズが9連覇を達成。開幕から15連勝とぶっち切り、大方の予想通りの展開となった。シーズン終盤はプレーオフ進出争いが盛り上がりを見せ、最終節にすべてのチームが出そろった。しかも、昨シーズンと同様、リーグ5位チームがファイナルに進む“下克上”が起き、府中アスレティックFCがリーグ制覇に迫った。それでも……最後は名古屋が圧巻の戦いを披露して優勝を飾った。そんなシーズンだった。
トピックはいくつもあった。ヴィニシウスがシーズン48得点の新記録をマークしてMVPを初受賞、フウガドールすみだの19歳・清水和也が19ゴールと躍動して新人賞を獲得。チームのことでは、アグレミーナ浜松が参入4年にして初めてホーム・浜松アリーナで勝利を収め、ヴォスクオーレ仙台は第16節からスペイン人のホセ・フェルナンデス監督が指揮を執り、第33節の最終節にしてようやく初勝利を手にした。府中がリーグカップ戦の決勝で名古屋を破ってクラブ史上初のタイトルに歓喜したり、プレーオフに参入2年目のすみだが3位で進出したことなども話題になった。さらにシーズン終盤は、選手の去就の話も出てきた。バルドラール浦安の高橋健介、名古屋の北原亘といった元日本代表選手が今シーズン限りでの引退を表明。名古屋9連覇の直後には、森岡薫の今シーズン限りでの名古屋退団や、ペドロ・コスタの現役引退および次期監督に就任が発表された。シュライカー大阪の木暮賢一郎監督の“愛弟子”とも言える25歳の森秀太は、選手を引退し、今後はボートレーサーの夢を追い掛けるという異色の転向を選んだ──。といった具合に、話題には事欠かなかった。
でも、こうしたある意味で表面的な話題ではなく、もっと細部にこそ、この競技の魅力が詰まっているのではないかと感じている。たとえば、こんなインサイド・エピソードがある。
2015年11月22日の第31節から12月11日の第32節までの約3週間の中断期間、すみだは対戦相手の大阪を研究して徹底的にトレーニングを積んだ。プレーオフの3位と4位を争うなかで、すみだのほうがよりこの一戦を重視していた。結果、すみだが5-3で勝利し3位に入ったが、プレーオフ1stラウンドで大阪と再戦した。第32節はここで大きな布石となっていた。このすみだとの戦いを分析した木暮監督は、試合までの3週間を使い果たしてすみだ対策を周到に準備。その成果が色濃く反映されて5-2で大阪が勝利した(ある意味で、ここに入れ込みすぎた嫌いがあって大阪は続く2ndラウンドの府中戦に勝ち切れなかった、という見方もあるのだが……)。いずれにせよ、すみだの須賀雄大監督と木暮監督の「戦略戦」は、相当にハイレベルな攻防を繰り広げ、最終順位でいえば、木暮監督に軍配が上がった。ただ一方で、リーグ戦ですみだに一度も勝てなかったことも、第32節で徹底的にやられたことも、木暮監督のプライドを傷付けたはずだった。
この一連の逸話をリアルタイムで追えていたら、もっと読者に興味深い話題を届けることができたはずだったのだが……。という反省はさておき、今年に入って改めて気付かされたのだが、各チームはリーグ戦の1試合に対して本当に多くのアプローチを行い、そこに時間を割いている。試合の分析、スカウティング、選手のコンディショニングなど、全権を託される指揮官の仕事も多岐にわたり、考え尽くされたトレーニングメニューを選手が体にインプットし、週末の試合を迎える。こうした多くのプロセスを経て結果が導かれると理解することで、試合を何倍も楽しめるはずだ。むしろ逆に、そこを知らないことで「勝った」、「負けた」という短絡的な結果に傾倒してしまう恐れもある。
結局フットサルには、「スピーディーで攻守の切り替えが激しく、選手との距離が近く、ゴールシーンも多い」という言葉では片付けられない魅力がある。「木を見て森を見ず」ではなく、森を見すぎるのが、必ずしも良いわけではないということ。フットサルの大枠の面白さだけではなく、木や枝、葉っぱの部分、つまり細部に注視することこそ大事なのではないかと、痛感したシーズンだった。
Fリーグは今、「1強11弱」という森のなかにいる。でもその変わらない勢力図が書き換えられるかもしれないくらいの変化が、森のあらゆるところで起きている。そういう他クラブの台頭という危うさをはらんでいるなかで達成した「名古屋9連覇」だからこそすごいのだ。現在のFリーグは、ディティールを見ることで、より楽しむことができる。
きっと10年目は、もっと面白いことになるだろう。今一度、選手や監督、スタッフの一挙手一投足に注目してみてもらいたい。
本田好伸(ほんだ・よしのぶ)
1984年10月31日生まれ、山梨県出身。 日本ジャーナリスト専門学校卒業後、編集プロダクション、フットサル専門誌を経て、2011年からフリーランスに転身。エディター兼ライター、カメラマンとしてフットサル、サッカーを中心に活動する。某先輩ライターから授かった“チャラ・ライター”の通り名を返上し、“書けるイクメン”を目指して日々誠実に精進を重ねる。著書に「30分で勝てるフットサルチームを作ってください」(ガイドワークス)